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東京消防庁公表・報告救急需要対策検討委員会報告書 

< 救急需要対策検討委員会報告書 >

第1 検討の背景と目的
 東京消防庁では、救急出場件数が増加の一途を辿っている中、救命効果の向上を図るため、救急隊の増強、救急救命士の処置範囲の拡大をはじめとする救急業務実施体制の強化に努めてきたが、救急需要の増加が救急隊の現場到着時間の遅延を招き、救急活動に深刻な影響を及ぼす事態が懸念されている。
 出場件数増加の原因と今後の予測について、平成14年度に専門機関に研究委託した結果においても、出場件数の増加は種々の複合する要因によるもので、統計上から特定の要因を抽出することは困難であったとの報告が示されたが、今後も更なる増加が予測され、同報告(研究結果)では平成27年には約116万件に達することが指摘されている。真に救急車を必要とする都民に迅速、適切に対応できるよう、都民、医療・福祉等の関係機関及び搬送事業者等との協働に基づいた体制を構築し、増大する救急需要に適切に対応していく必要がある。
 本委員会は、こうした背景を踏まえ、救急需要対策として、広く提言を行うことを目的としたものである。

第2 救急需要対策
1 救急車を正しく利用してもらうための方策
(1) 救急車の利用と広報に関する現状と課題
(現状)
 平成15年中の救急出場のうち約60%が急病、搬送人員の約60%が軽症、約36%が65歳以上の高齢者となっている。特に、高齢者の搬送割合は、平成10年を100とした指数で見ると平成15年中は148となっており、高齢者人口の伸びを大きく上回っている。
 出場件数の増加に伴い、現場到着時間は平成10年が平均5分18秒であったのに対して、平成15年は6分24秒と1分6秒延びている。
 搬送先医療機関の選定は、要請者の希望する医療機関への依頼搬送が約34%で遠距離・長時間の活動も多く見られる。特に急病は依頼搬送の割合が高く約47%を占めている。
 東京消防庁が実施した世論調査では、救急車を利用する状況として、ほとんどの都民が緊急性を第一に掲げているものの、「ただで、直ぐに来て、優先的に診てもらえる」という利便性に着目した回答も多く見られる。
 正しい救急車の利用に関する広報は、パンフレット等によるものが主で、都民に対する広報効果の面から十分であるとは言えない。
 東京消防庁の行う医療機関案内は、平成15年中、テレホンサービス(災害救急情報センター)で約23万件、各消防署所でも約2万7千件に対応しており、都民の医療機関案内に対するニーズは高い。
 東京都等においても、医療機関案内(ひまわり等)、保健医療相談等の各種相談窓口を設置しており、都民ニーズの細分化に伴い相談窓口が分散化の傾向にある。

(課題)
 救急業務の本質と利用する都民の認識との整合を図り、全ての都民が等しく、救急業務の恩恵を享受できるよう、救急車が正しく利用されることが必要である。
 都民に対して、救急車利用のルールとマナーを普及し、定着させることが救急需要対策の原点であることから、都民の理解を得るための積極的な広報動を展開する必要がある。
都民が「受診すべき医療機関や救急車以外の搬送手段がわからない」また、「救急車を呼ぶべきか、自分で受診すべきかの判断に迷う」という実態もあることから、こうした都民ニーズに対応できる救急相談窓口の充実を図る必要がある。

(2) 対応策
ア 都民の責務
 「救急業務は、傷病者の生命及び身体を護るための緊急の業務であり、住民が等しく利用し得る公共の業務である。」ことを理解し、都民自らが救急車利用のルールとマナーを守ることが、真に救急車を必要としている傷病者の命を救うことにつながることを再認識する必要がある。
 救急隊による収容先医療機関への搬送は、傷病者の容態に適応した直近の救急医療機関に搬送するものであり、救急業務に支障が生じる遠距離の依頼先(かかりつけを含む)医療機関への搬送は避けなければならないものであることを認識する必要がある。

イ 東京消防庁等への提言
 都民に救急車利用のルールとマナーを普及、定着させるための広報として、テレビ、ラジオ、インターネット、携帯電話、公共交通機関、コンビニエンスストア等の媒体や防災館等を活用した効果的な広報活動を推進すべきである。
 広報する具体的な内容として、救急車利用のルールとマナーを伝えるほか、救急車の要請が集中した時などは、救急出場の現況をリアルタイムに都民に伝えることにも配意すべきである。
 学校教育の中で、「命の大切さ」や「救急車の役割」について教育できるよう、関係機関に積極的に働きかけていくべきである。
 119番通報の緊急性を確保するため、都民ニーズに対応した救急相談窓口の充実が必要であり、救急相談センター(仮称)の新設について積極的に検討すべきである。

2 関係機関との連携による救急車の効果的利用方策
(1) 関係機関の取り組みと連携に関する現状と課題
(現状)
 高齢化、疾病構造の変化、在宅患者の増加等、社会環境の変化に伴い、潜在的な救急需要は増大している。
 東京都においても、地域医療システムの整備推進、健康づくりや保健指導の推進、福祉車両の整備・利用への助成、医療機関案内、医療福祉相談の実施等、様々な施策を実施している。
 救急医療については、初期、二次及び三次救急医療機関を確保する体制が整備されているが、二次医療機関の役割が十分認識されておらず、また、都民の大病院指向等から一部の医療機関に患者が集中するなど、救急車の利用のあり方を含め十分に機能していない面が見られる。
 転院搬送(医療機関間の搬送)には、東京消防庁、医療機関及び患者等搬送事業者の車両が利用されているが、官民の搬送業務の役割分担は明確とは言えず、医療機関等の車両の活用は十分に図られているとは言えない。
 転院搬送の実態は、救急車の利用が約4万件あり、その中には救急車の利便性のみに着目したものと思われる要請が多く見られる。

(課題)
 医療及び福祉分野において各種施策や施設基盤の整備が進められているが、今後、これらの施策や施設機能が一層有効に機能するよう推進する必要がある。特に搬送が必要な場合における、関係機関の役割分担を整理し、都民に周知する必要がある。
 転院搬送に官民の役割分担に基づいた適正な救急車の運用を定着させ、緊急性の少ない利便性のみに着目した、救急車を利用した転院搬送の抑制を図っていく必要がある。
 救急要請の通報に至る前・通報時、救急車の現場到着時、傷病者の医療機関収容時・収容後(転院搬送)の各段階において、傷病者の緊急性やニーズを踏まえた適切な判断、選択及びトリアージ等が実施される必要がある。

(2) 対応策
ア 都民の責務
 救急出場件数の約60%は急病が占めており、健康づくりの支援や疾病予防対策等のより一層の推進が望まれる。
 優先的に診てもらえるという理由だけからの誤った救急車利用を抑制するため、救急医療機関において、詳細な診察に着手する前に医学的観点から来院時トリアージを行うべきである。
 転院搬送には医療機関が保有する車両の有効活用を図るとともに、転院搬送に救急車を要請する場合は、救急業務等に関する条例に規定された要件を満たすよう配意すべきである。
 救急車が傷病者の容態に適応する直近の救急医療機関への搬送を徹底するためには、確実な収容が前提となることから、受入体制の一層の向上を推進すべきである。

イ 東京消防庁等への提言
 東京消防庁は救急業務に関連する関係機関の施策展開に、積極的に関与、協力し、適正な救急車利用を推進すべきである。
 救急車による搬送の要否判断等を行う場合は、法的責任の所在、諸条件、効果等について十分な検討を行った上で、医学的にも検証がなされ、都民にも了承された基準・プロトコールを策定すべきである。
 救急業務に支障が生じる遠距離の依頼先医療機関への搬送については、傷病者の容態に適応した直近の救急医療機関に搬送するものであるという救急活動の原則について都民の理解を得ていくべきである。

3 患者等搬送事業者の効果的な利用促進方策
 本委員会では、救急業務の緊急性・公共性という観点から、官と民の役割分担を明確にした上で、都民の理解を得るとともに、患者等搬送事業の活用を積極的に図ることが有効な救急需要対策のひとつであることから、集中的に審議するため、専門部会を設置した。患者等搬送事業の活用に際しては、東京民間救急コールセンター(仮称)の設置による利便性の向上を推進することが必要である。また、事業者自身が業務の普及と信頼性の向上に努め、業務の高度化を図る必要があり、東京消防庁等はその活用が促進されるよう環境整備を図るとともに、質の維持向上に配慮すべきである。
 なお、具体的な方策等は別添え「救急需要対策検討委員会専門部会報告」のとおりである。

第3 将来的な方策への提言
本委員会の将来的な方策への提言として、以下のような意見もありその概要をまとめる。

1 救急相談センターの全国的な展開
 救急需要の増大は大都市を中心として顕著であるが、今後、全国的な問題に発展していくことが予測される。国民の救急業務に寄せる期待の高まりの中で、全国統一の国民に普及しやすい電話番号(例えば199など)を設定した救急相談センターの設置について検討する必要がある。

2 救急車適正利用の検証
 救急車の適正利用を促進するため、正しいルールとマナーが守られているか、また、各種広報の効果がどの程度上がっているか等を検証する新たな方策について検討する必要がある。

3 救急業務の有料化
(1) 救急業務の有料化について
救急需要の抑制策として、救急の有料化を図る必要があるのではないかとの意見があった。
一方、救急業務の有料化に対し、
1 事故や災害から国民の生命や身体を保護することや、緊急を要する事態での人命の救護・救急活動は、関係法令が規定しているように、地方公共団体の基本的な責務であること
2 有料化を図ることは、「お金を払うのだから」といった意識によって、これまで以上の救急需要増大を招く恐れがあること
3 有料化を図る前提として、保険等の社会インフラの整備が求められること
4 本来救急車が必要な事案についての要請を躊躇させる恐れがあること
等々の法的・社会的背景などから、現状では救急業務の有料化は難しい実態にあるとした否定的な意見が多かった。
 こうした意見を踏まえ、今後の救急需要の動向等を踏まえつつ、将来的な課題として慎重な検討が望まれる。

(2) ヘリコプター搬送の有料化について
 消防ヘリコプターの有効性に着目した傷病者搬送のうち、傷病者自身の由来に基づく転院搬送については、今後のニーズも考慮し受益者負担の観点から検討を行うべきである。
 なお、既に民間救急ヘリコプター事業者も存在していることから、これらの活用も考慮すべきである。


  本報告書においては下記のとおり語句の定義を行った。
・トリアージ 傷病者を傷病の緊急度や重症度に応じ、治療(搬送)の優先順位を決定すること。
・プロトコール あらかじめ定められた手順。
  本報告書における平成15年中の数値は速報値である。