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消防科学セーフティレポート

■ 59号(令和4年)
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消防活動時の退路確保資器材に関する検証

現在、検索時の主な退路確保方法は、筒先担当員がホース線、検索員が検索ロープとされている。また、令和2年度検証で実施した現行装備品及び検索体形の整理・調査結果では、屋内進入による退路を見失う危険を回避して検索を可能とする資器材、及び検索時の視認性向上を図るための装備品が恒常的に求められていることが確認された。そこで、より確実な退路確保を実現するための資器材について、技術革新が進み先端技術が導入されている市販品の無線通信機器、及び現行資器材等を対象に調査・実験を行った。実験結果より退路確保性能及び課題を整理し、退路確保に求められる性能の展望について言及した。

  
ストレッチャーの振動特性に関する検証

振動発生装置を用いて緊急走行時の救急車両床面の振動を再現することにより、当庁で最も仕様の多いストレッチャー(以下「手動ストレッチャー」という。)上と床に直付けの電動ストレッチャー上の振動特性及び振動が人体に与える負担や影響等(以下「負担等」という。)を明らかにするとともに、今後の電動ストレッチャー導入に関する資料とすることを目的として検証した。

人体ダミー及び被験者による検証の結果、手動ストレッチャーと電動ストレッチャーの緊急走行時の揺れを比較すると、各ストレッチャー自体の揺れの特性に若干の違いはあるが、防振架台の有無に関わらず、各ストレッチャーの揺れは被験者の血圧、心拍数及びSpO2(血中酸素濃度)(以下「バイタル」という。)の変化や乗り心地に差は見られないことが確認された。

また、安定性評価に関する検証の結果、ストレッチャーのベッド部分が最下段の時には、電動ストレッチャーは手動ストレッチャーに比べて進行方向に対して横に倒れにくいことや、段差を乗り越えた際の衝撃が弱いことが確認された。

  
熱画像装置による階層間の延焼拡大の危険察知に関する検証

本検証では、熱画像装置を活用した木造住宅の天井裏や2階部分の床下など(以下、「階層間」という)の延焼拡大の察知及び検索時の踏み抜け危険のある温度について実験を行い検証した。実験は、階層間を模した1畳程度の大きさの試験体をバーナーで加熱し、その表面を熱画像装置により撮影することで行った。

その結果、床面を映した場合、フローリングの床は床下の延焼拡大を察知することができる可能性が高いことがわかった。天井面を映した場合、標準的な仕様の天井は床面を映した場合よりも明確に天井裏の延焼拡大を察知できた。また、床材の厚さによらず床表面の温度が100℃以上で踏み抜き危険の高い状態とする指標を提案した。

  
アイトラッキング技術を用いた消防技術の向上に関する検証(消防車両等の安全運転技術)

当庁の有過失交通事故の低減に向けた安全運転技術の向上を図るため、アイトラッキング(視線計測)技術を用いて、機関員の視線動作を定量的に把握し、防衛運転に求められる視線動作を明らかにすることを目的とし検証した。

被験者にアイトラッカーを装着して公道上を一般走行し、熟練者と非熟練者の二者間で視線データを比較した結果、熟練者は右左折時及び直進時の周囲の安全確認を非熟練者よりよく実施していることが分かった。特にカーブミラー確認、電柱確認、左右ミラーによるリアオーバーハング確認、左右後方目視による巻き込み確認について注視回数の差が顕著であった。

また、非熟練者にアイトラッキング技術を用いた振り返り訓練を実施した結果、従来のドライブレコーダーを用いた振り返り訓練に比べ、短期間で熟練者の視線動作を意識できるようになり、より危険を考慮した防衛運転が出来るようになった。

  
アイトラッキング技術を用いた消防技術の向上に関する検証(中隊長の指揮技術)

本検証では、消防活動時における中隊長の視線動作を明らかにし、人材育成に関する基礎資料の作成を目的として検証を実施した。住宅火災により逃げ遅れた要救助者を救出する訓練想定において、中隊長にアイトラッカーを装着し、訓練中の視線動作の計測、分析を実施した。

その結果、要救助者や登てい中の隊員など、明らかな危険箇所を重点的に注視する傾向のある者、現場を広く注視し、広範囲な危険個所を探る傾向のある者といった、注視傾向の差異を確認することができた。

  
火災現場で発生する有害物質の危険性に関する検証 (第2報)

海外において、火災で発生する有害物質に曝される消防隊員は、将来的に健康を害するリスクを有しているとされており、それを低減するための対策が既に講じられている。

本検証では主として、発がん性を有する揮発性有機化合物(以下「VOC」という。)及び多環芳香族炭化水素(以下「PAH」という。)に着目し、防火衣への付着状況の把握と効果的な除染方法の確立及び海外の規制を基準とした危険性評価を行った。また、その実験結果の裏付けをとるため、実際の火災現場に近い環境を想定した模擬家屋の燃焼実験と杉を燃焼させて行う実火災体験型訓練施設での汚染状況を把握した。

その結果、VOC及びPAHが発生し、防火衣に付着することが明らかになった。また、ポリスチレン(以下「PS」という。)など、ベンゼン(以下「BZ」という。)環を有する材料が燃焼することにより、杉などの木材の燃焼よりもPAHの排出量が多いことが確認された。将来的な健康被害のリスクを低減させるためには、火点室の早期の積極的な排煙や防火衣等の各種装備品に対し、現場での除染や、二次汚染の防止のため密封して保管し、帰署後に除染を行うことが必要である。

  
新たな暑熱順化トレーニングに関する検証

職員個々の運動能力や実施環境に応じて負荷や種目を柔軟に選択でき、安全に実施できる暑熱順化トレーニングを考案し、その効果や暑熱順化トレーニング時の着衣による身体負荷について検証し、暑熱順化トレーニングの効果的な実施方法や安全に実施するための注意点等を提言することを目的とした。運動能力別に3群に分けた被験者に、ラン、サーキット及びそれらを組み合わせたミックスの3種類のいずれかのトレーニングを実施させ、暑熱順化の効果を評価した。また、温度環境別に防火衣や雨がいとう等を着用して運動した時の身体負荷を評価した。その結果、運動能力が中程度以下の群に暑熱順化の効果が認められ、暑熱順化トレーニング時の着衣負荷は25℃を超える環境で高くなることが分かった。

  
救急隊員の疲労に関する検証

当庁が平成31年4月から導入した新たな交替乗務方策の疲労軽減効果や疲労度の傾向等を定量的に評価することを目的とした。3種の交替乗務方策を実施する救急隊各1隊の当務中の救急活動状況を調査するとともに、活動量、フリッカー値、主観的疲労度(視覚的評価スケール、自覚症しらべ)の測定と自由記述による質問紙調査を実施した。

新たな交替乗務方策は、出場件数や活動時間については救急隊の負担が分散されていた。しかしながら、救急隊員の主観的疲労度では交替乗務方策に関わらず、日中の降車では疲労度は軽減せず、夜間に降車すると疲労度が低下した。交替乗務により日中に救急隊に乗務していない時の過ごし方や、夜間の救急乗務の負担を分散するような運用方法が求められる。

  
消防職員の高年齢期における心理に関する検証

定年退職前後において、高年齢期職員の心理面を2年にわたり調査し分析することで、仕事へのモチベーションにどのような心理的要因が関連しているのかを検証し、定年延長後も60歳前と変わらないモチベーションの維持や、新たなモチベーション創出の一助とすることを目的として質問紙調査を実施した。

定年退職前の高年齢期職員における仕事へのモチベーションにどのような要因が関連しているかを明らかにするために、尺度間において重回帰分析を実施した。

その結果、世代間や階級間における職員同士の交流と心理尺度との間に因果関係が認められ、仕事へのモチベーションにポジティブな影響を及ぼしていた。また、定年延長後や定年退職後もモチベーションを保って勤務を継続するためには、次世代を育成することに関心を持ち、やりがいを見出すことが効果的であると考えられる。

  
避難所で使用する物資の燃焼に関する検証

避難所物資に潜在する燃焼危険及び避難所居住スペースの安全確保について検討するため、避難所で使用する物資が燃焼した時の受熱側の熱流束等の測定を目的とした実験を実施した。

避難所物資を間仕切、敷物及び掛物に分類し、それぞれの内で最大の熱流束となるサンプルを確認し、居住スペースを再現して燃焼実験をしたところ、火源からの距離0.5mにおける熱流束は14.1kW/㎡、距離1mでの熱流束は8kW/㎡であった。このことから、居住スペース間の避難通路幅を1m以上確保すると、熱流束の観点からは延焼防止に有効であることが分かった。また、防炎製品の使用により最大の熱流束に到達するまでの時間を遅延させられることも分かった。

  
簡易消火具等の初期消火効果に関する検証

本検証では、市販されている簡易消火具等を用いて消火実験を行い、各製品の消火能力、操作性、安全性について確認することを目的とした。

計10種の簡易消火具等で消火実験を行った結果を比較すると、性能評定を受けている住宅用下方放出型自動消火装置が消火能力、操作性、安全性において優れているなど、それぞれの消火能力、操作性、安全性を確認することができた。

  

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