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消防科学セーフティレポート

■ 57号(令和2年)
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消火用ノズルの性能評価に関する検証(その1 基本性能の評価方法について)

消火用ノズルを定量的に評価するための統一的な試験方法及び評価方法が確立されていないことから、消火用ノズルを導入する際の定量的な性能比較ができない。そこで、本検証では新たな消火用ノズルの導入を検討する際の統一的性能試験方法及び評価方法を提案することを目的とした。

消火用ノズルの基本性能を特徴づけると判断した射程距離、流量、散水分布及び反動力について測定方法を提案し、現有ノズルを用いて得られた結果から性能試験方法の妥当性と評価方法について検討した。

その結果、提案した試験方法は妥当であることを確認した。また、基本性能の評価方法については、反動力と流量から推測でき、反動力及びノズル元圧が低いほど扱いやすいと評価するとともに、各試験結果から各消火用ノズルの特徴を散布度による分類分けにより、比較評価する方法を提案した。

消火用ノズルの性能評価に関する検証(その2 消火性能の評価方法について)  本検証は、その1において、消火用ノズルの基本性能の評価方法について、反動力と流量が比例することから扱いやすさを流量で比較評価するとともに、各消火用ノズルの特徴を散布度による分類分けで比較評価する方法が有効であることを示した。
 本報では、消火用ノズルの消火性能を評価する方法の確立を目的とし、燃焼させた普通火災2単位模型に対し、放水位置からの距離を変えて放水し、消火の成否を確認する実験から消火に最低限必要な単位時間、単位面積当たりの水量を推定した。また、散水分布の測定結果から、ノズルごとの有効散水密度が得られる範囲を確認した。
 その結果、この有効消火面積の大きさを既存の複数のノズル間で比較し評価する手法に、一定の有用性があることを示した。
消火用ホース結合金具の結合方式に関する検証  当庁は、結合金具の結合方式がねじ式の消火用ホースを活用し消防活動に従事しているが、全国の消防本部では、金具に差込式の消火用ホースを採用している。町野式は、迅速なかん合及び離脱を可能とし、消防活動時の隊員の負担を軽減できるとされているが、一方で、操作者の意図に反した予期せぬ離脱や結合方式の機構が原因で発生の恐れのある離脱が懸念されている。
 本検証では、他消防本部の導入状況、金具の特性についての調査分析及び各実験を通して、ホース選定の一助となることを目的に、それぞれの優劣を客観的なデータで示した
放射温度計の活用方策に関する検証  本検証では、放射温度計の基礎的な機能の確認を行った上で、実大規模の火災で生じる熱気を含んだ濃煙等に対して放射温度計等を使用した場合の表示温度の傾向を明確にし、火災現場での延焼拡大による活動危険を事前に把握する方法の有無と有効な活用方策を明示することを目的とし実験を行った。
 
その結果、放射温度計及び簡易型熱画像直視装置は、使用に際する注意点はあるが、燃焼拡大の危険性及び建材裏側の高温状態を推測するために温度を把握する資器材として活用できることが分かった。特に簡易型熱画像直視装置は熱画像の確認により、放射温度計では困難なより離れた位置からの熱源の把握や煙発生時の温度環境の把握が比較的容易にできるものであることが分かった。
拭取り除染資器材の効果の検証  大規模な化学災害の現場では、多数の傷病者をいかに短時間で除染し、いかに早期に救急搬送して医療機関へ引き継ぐかが、救命率や傷病者の予後に大きな影響を与えると言われている。しかし、多数の傷病者に対して大量除染が必要となる場面においては、拭取り除染用として配置されているタオルやウエットタオルが不足する事態に陥ることが懸念されている。一方、漏洩した油や化学物質などの液体を吸着して取り除くために配置されている油等吸着マットは、タオルやウエットタオルの代替品として使用できる可能性があり、そのような場面における有用性が期待されているが、これらの拭取り除染の効果に関する検証例は極めて少ないのが現状である。
 本検証では、タオルやウエットタオル、油等吸着マット及び代替となり得る市販流通品の除染効果を、拭取り前後における汚染物質の重量を測定して評価した。その結果、油等吸着マット及び市販流通品は、タオルの代替品として使用できる可能性が示唆された。また、拭取り除染を行う上で有用な知見を得ることができた
LED付き安全チョッキの視認性に関する検証  当庁では、暗所における消防活動の際、反射材付きの安全チョッキを着用している。近年、LED付き安全チョッキが市販されていることから、LED付き安全チョッキの発光色等の違いによる視認性を比較し、当庁の装備として最適なLED付き安全チョッキを明らかにすることを目的とした。方法は、消防活動現場を再現した環境(背景光あり・なし、煙)で発光色(赤、白、青、緑)による視認性の差異を一対比較法により評価した。さらに、発光パターン(点滅、点灯、消灯)、発光数(11個、6個、3個)による差異を評価した。
 検証の結果、いずれの環境においても、緑色LED光が最も視認性が高かった。発光パターンは点滅が、発光数は数が多いほど視認性が高いことが明らかになった。緑色LED光が点滅する安全チョッキは、消防活動現場において視認性が高く、当庁の装備として最適である。
新型防火衣のヒートストレス等の検証  当庁が装備する防火衣はISO(国際標準化機構)が策定する規格の性能を有し、平成8年の導入以来、上衣に安全帯を取り付けた形状を仕様としている。平成31年4月20日に発隊した統合機動部隊の統合指揮隊用に試行され、令和2年4月より本運用された防火衣は、防火衣ズボンに安全帯を取り付けているため、ヒートストレスの緩和が見込まれる新たな仕様となっている。そこで本検証では、一般隊員が現在使用している防火衣と新型防火衣のヒートストレスによる影響や使用感等を比較し、今後の防火衣の仕様を検討する際の資料とすることを目的とした。防火衣を着装した被験者に暑熱環境下で運動負荷を与え、生理的、主観的指標を評価した。
 その結果、現行防火衣及び新型防火衣のヒートストレスによる身体への影響は概ね同等であること、歩行時における主観的評価並びに防火衣の上衣及びズボンの質問紙調査における評価は新型防火衣の方が良好であることが分かった。
初任学生の熱中症予防方策に関する検証(環境測定)  消防学校初任学生の訓練環境における熱中症リスクを把握するため、訓練環境の環境測定を実施し、熱中症予防方策に活かすことを目的とした。消防学校グラウンドの日向、打ち水箇所、日陰及び屋内訓練場のWBGTを測定するとともに、地表面温度を測定した。
 本検証の結果、グラウンド日向のWBGT31℃以上(運動原則中止)になる場合があり、テント等で日陰を作成すると、地表面温度の上昇は抑制されるが、WBGT は日向と同様に過酷な暑熱環境であり、休憩には適さないことが確認できた。夏季の日向の地表面温度は約70℃に達し、打ち水を実施すると地表面温度が30℃程度低下し、地面からの輻射熱の軽減に効果的であった。一方、空調による温度管理がなされた屋内訓練場は、休憩場所として適切であった。
熱中症予防に対する飲料水の効果的な摂取方策に関する検証  本検証では消防活動を模した運動を実施し、水分摂取量や飲料水の種類、運動前における水分摂取の有無による影響について検証を行い、熱中症予防に対する飲料水の効果的な摂取方策を示し、活動安全に資することを目的とした。防火衣を着装した被験者に暑熱環境下で運動負荷を与え、生理的、主観的指標を評価した。
 その結果、飲料水の種類による比較では、運動中の生理学的指標に差が無かったが、飲みやすさに差があった。事前飲水すると外耳道温度や心拍数が抑制された。また自覚発汗量が過小評価されていた。これらのことから、事前飲水が望ましいこと、飲みやすいものを少量ずつこまめに摂取することが望ましいことが分かった。
消防職員のストレス対処力に関する検証  消防職員(消防署職員及び消防学校学生)のメンタルヘルス対策を目的として、消防職員のストレス対処力(以下「SOC」という。)について質問紙調査を実施した。SOCに関する属性(性別、年齢、階級、勤務年数、勤務体制)間比較として分散分析を実施し、SOCを含む各尺度間の因果関係を明らかにするために重回帰分析を実施した。
 その結果、消防署職員のSOCは、年齢では20代、勤務体制では交替制が高かった。また、上司、先輩、同期からのソーシャルサポートを多く受けていると感じているほどSOCが高く、SOCが高いほど現在の立場や階級に満足し、精神健康度も良かった。消防学校学生は、同期からのソーシャルサポートを多く受けていると感じているほどSOCが高く、精神健康度も良かった。
電気プラグのプラスチック中の赤リンの検証  電子機器等のDCプラグのプラスチック中に含まれる赤リン系難燃剤は、コーティング処理が不十分な場合、加水分解反応によりリン酸が生成することで、プラスチックの絶縁性が破壊され、火災の原因となることが知られている。
 当庁では従来、こうした不良プラグが原因と疑われる火災の鑑定では、焼損したプラグに付着するリン酸の有無を分析することでコーティング処理が不十分な赤リンの有無を推定する手法をとっている。しかし、表面に付着するリン酸がない、またはごく少量であった場合、見落とす可能性がある。
 
本検証では、エポキシ樹脂に赤リン等を配合した模擬サンプルを作製し、不良
プラグに対する新しい分析手法を検討した。赤リンの加水分解反応で生成するリン酸を熱水で抽出する手法を検討し、プラスチックに配合される添加剤や火災現場で生じる損傷が本手法に与える影響を解明するとともに、火災鑑定における有効性を明らかにした。また、赤リン自体を分析する手法を検討し、火災鑑定における有効性を明らかにした。さらに、検証から得られた知見を基に、不良プラグに対する新しい鑑定手法を考案した。
地震動によるカセットこんろの挙動の検証  カセットこんろには一般的に地震の揺れを検知し自動で消炎する安全装置は備わっておらず、カセットこんろ使用時に地震が発生した場合には、カセットこんろに起因した火災の発生が懸念される。また、地震発生後においても、ガスや電気の供給停止などにより生活様態が変化し、引き続き地震発生が懸念される状況下においてガステーブルなどの調理機器の代替品としてカセットこんろや直結型簡易こんろの使用が拡大することが予想される。このことから、振動発生装置を用いてカセットこんろ及び直結型簡易こんろの地震動による挙動や燃焼状態の変化などを確認し、地震時におけるカセットこんろの出火危険を検証した。
 その結果、カセットこんろは地震動により移動するだけでなく、揺れによって炎が異常拡大する場合があることが分かった。
 
地震動による飲食店等におけるフライヤーの挙動の検証  地震が発生した場合、飲食店においてフライヤーから油が飛散し、周囲にあるガスこんろ等のガス機器により着火するおそれがある。特に出火危険が高い状況としては、飲食店が高層階にあることで揺れが増幅される状況や、地震動が長周期となりガス機器と接続しているマイコンメーターの感震自動停止装置が作動しない状況が挙げられる。本検証では今後発生が予想される首都直下地震の高層階における想定地震動や、感震自動停止装置が作動しない程度の長周期地震動を用い、フライヤーの油の飛散挙動について調べた。また、業務用のガスこんろに油が飛散した場合の着火危険について検証を行った。
 その結果、フライヤーの油槽の形状から、比較的正面付近への飛散量が多くなること、また飛散した油はガスこんろ等の炎に継続して接炎しなければ着火しないことが判明した。
 
火気設備等の周囲に設置するガラスの安全性に関する検証  火災予防条例で特定不燃材料が定義されているが、ガラス及び瓦は除かれており、火気設備等の離隔距離内に設置することができない。一方、調理中の煙や油が客席に入ることを防ぎ、調理を見せるために、火気設備等の周囲に間仕切りとしてガラスを設置したいという相談を受けることが多くある。
 
本検証では、ガス消費量5.8kWのガスこんろとガラス6種の間仕切りを用い、火災危険(ガスこんろ側方15cmで全熱流束≧10kW/㎡)並びに避難障害及び受傷危険(熱割れ、急冷割れ及びガラス非加熱面温度≧70℃)が生じない条件を模索した。
 その結果、低膨張ガラス6.5㎜、耐熱結晶化ガラス5㎜及び8㎜は、一定の条件の下、間仕切りとして安全に設置可能であることが分かった。
 
特定不燃材料で有効に仕上げをした建築物等の部分の構造に関する検証  本検証では「対象火気設備等及び対象火気器具等の離隔距離に関する基準(平成14年消防庁告示第1号)」に準ずる方法により家庭用ガスこんろの加熱実験を行い、特定不燃材料等で仕上げをした壁体の可燃物部分が100℃以下となり、かつ損傷が生じない仕上げと離隔距離の条件を示すことを目的とした。
 その結果、
壁体の温度上昇は火気設備-壁間の離隔距離よりも、鍋-壁間距離に依存する傾向が確認でき、離隔距離15㎝を確保しても鍋が壁に接した状態で使用すると、火災に発展する危険性があることが分かった。鍋の寸法や使用形態に一定の制限を設ける必要はあるが、15㎝未満の離隔距離でも通常の施工で用いられる仕上げ条件(不燃材料2枚張り以下)により、火災予防上安全に家庭用ガスこんろが設置できる条件を示すことができた。
 

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