第6章 火災に立ち向かう
この章のねらい
基本科目
消火
達成目標
- 消火器の取扱いを指導することができる。
- 軽可搬消防ポンプを操作することができる。
- スタンドパイプを活用した消火訓練ができる。
1 消火器の取扱指導
(1)操作フローチャート
使用上の注意点
火災を発見したら、焦らず、落ち付いて行動するように心がけましょう。
- 隣近所の住人に、消火や通報の協力を求めることが重要です。
- 運ぶ前に安全ピンを抜いてしまわないようにしましょう。
- 消火器による消火限界の目安は、炎が天井に到達するまでです。
- 危険と感じた場合は、直ちに安全な場所に避難し、消防隊の到着を待ちましょう。
- 消火不能になった場合を考えて、逃げ口を背面にして消火します。
- 放射すると白煙や粉末が充満して視界が悪くなることがあるので注意しましょう。
- 何が燃えているか、しっかり確認しましょう。
(2)消火器使用上の注意点
粉末消火器
- 燃焼物を覆うようにして消火すると効果的です。
- 炎を瞬間的におさえますが、一時的に火が消えたように見えても再度燃焼する可能性があるため、最後までしっかり放射し、消火後に水をかけて完全に消火しましょう。
- 放射時間が比較的短いことから、複数の消火器を使用して消火を試みるとより効果的な消火ができます。
- 狭い部屋で使用すると粉末薬剤が部屋中に広がり、消火活動や避難の障害となる場合があります。なお、粉末を吸い込んでも、人体に影響はありませんが、目に入ったり、大量に吸い込んだ場合はすぐに医療機関を受診してください。
強化液消火器
- 壁やふすま等が燃えている場合は、燃えている物の上方からかけると効果的です。
- 浸透性があるため、木材などの火災には特に有効です。
(3)消火器の点検・管理
いざという時に、消火器が使用できなければ意味がありません。法律で定められた点検は、専門の業者や建物所有者等が実施しますが、日常の中で実施する点検も非常に重要です。日頃から身近にある消火器の位置を確認するとともに、以下の4つの項目について点検してみましょう。
- 安全ピンはあるか。いたずら等で使用された形跡がないか。
- 容器本体、底部、ホース、ノズルに腐食・変形・損傷・劣化がないか。
- 蓄圧式の場合、圧力計の指針は緑色の部分を指しているか。
- 陽のあたる場所や湿気の多い場所に設置していないか。
(4)住宅用消火器について
各家庭内などに設置してある住宅用消火器は、多種多様な種類が存在します。
一般的に、小型で軽く、女性やお年寄りでも扱い易いのが特徴で、維持管理が比較的容易です。塗色の規制も無いため、形や色は様々です。一般的に消火薬剤の再充填はできない為、使い切りとなります。
自宅に設置してある場合は取扱説明書を十分に熟読し、日頃から操作や管理方法についてよく理解しておくようにしましょう。
2 D級可搬消防ポンプの取扱方法
2.1 D級可搬消防ポンプの性能
(1)D級可搬消防ポンプとは
初期消火を行う場合、最初に思いつくのは消火器です。
しかし、消火器は、発生して間もない初期の火災に対しては非常に有効なものですが、消火限界を超えた火災には対応することが困難です。
地域住民の方々が使用できるものの中で、高い消火能力を持つのがD級可搬消防ポンプです。ポンプとしては小型ですが、1分間に130L以上の放水ができ、操作方法もやさしく、取扱いを覚えれば少人数での操作が可能です。
D級可搬消防ポンプは通常、搬送用の台車に吸管やホース、管そうなどと一緒に収納されています。
(2)D級可搬消防ポンプってどこにあるの?
東京都内には23区内だけでも約3,000台のD級可搬消防ポンプが配置されています。主な配置場所は、地域の町会・自治会や消防団の倉庫、学校などです。
みなさんの身近にあるかどうか、どこにあるかを確認してみましょう。
(3)D級可搬消防ポンプの仕組みはどうなっているの?
通常、D級可搬消防ポンプは、台車に収納された状態で配置されています。台車には、ポンプ本体の他に、ホース、吸管、管そう、消火栓鍵等が載っています。仕組みを簡単に説明すると、ポンプにつないだ吸管で水を吸い上げ、エンジンにより加圧し、ホースから放水する仕組みになっています。
吸水から放水までの流れ
訓練時の注意事項
消火栓、排水栓などを使用した訓練の際には、事前に消防署に届け出る必要があります。 |
(4)各部の名称
各部名称 | 各部説明 | |
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エンジン部 | 1. 燃料タンク | 燃料(ガソリン、2サイクルエンジンオイルの混合燃料)を入れておきます。 |
2. 燃料コック | エンジンへ燃料を送るパイプ管を開きます。 | |
3. スターターロープ | 引っ張ることによりエンジンを始動します。 | |
4. スロットルレバー | エンジンの回転数を調整します。 | |
※ チョークレバー(付いていない機種もあります) | 燃料と空気の混合比を調整します。 | |
ポンプ部 | 5. 吸水口(ネジ式) | 水源から吸水するための吸管をつなぎます。 |
6. 吸水レバー | 水源の水をポンプに吸い上げるときに操作します。 | |
7. 放水口(差込式) | 放水のためのホースをつなぎ、ポンプで加圧した水を送り出します。 | |
8. 放水弁ハンドル | 放水を開始するときに操作します。 | |
9. 圧力計 | ポンプ圧力が表示されます。 | |
10. ドレンバルブ | ポンプ内部の排水時に操作します。 |
2.2 D級可搬消防ポンプ操作手順
ポンプ操作手順
(1)吸管を吸水口に結合した後、水源に吸管の先を入れます。 | |
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1. 吸管は吸水口にしっかりと結合します。緩んでいると吸水ができません。(吸管の結合部分はネジ式です。) | |
2. 吸管の先は、空気を吸わないように、しっかり水の中に沈めます。※吸管にねじれや曲がりがないように注意します。 | |
(2)ポンプのエンジンを始動します。 | |
1. 燃料コックを開き、燃料を送ります。 | |
2. スロットルレバーを「始動」の位置に合わせます。 | |
3.
スターターロープを一気に引き、エンジンを始動します。 ※引く時は後方の人に注意しましょう。 ※ベルト部分に指や服などを巻き込まれないように気を付けましょう。 |
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(3)エンジンが始動したら、吸水レバーを操作し、吸水します。 | |
1. 吸水レバーを「吸水」側に操作します。 ※運転中のエンジン部は高温となり、やけどのおそれがあるため、注意しましょう。 |
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2.
真空ポンプ排水パイプから水が連続的に出るのを確認し、吸水レバーを元の位置に戻します。水が出ていれば吸水できています。 圧力計指針の上昇を確認しましょう。 ※吸水が確認できない場合は、1.吸管はしっかり結合・投入されているか2.ドレンバルブが開いていないかなど、操作手順を再確認しましょう。 |
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(4)放水担当から合図があったら、放水弁ハンドルを開きます。 | |
1.放水弁ハンドルを開放して水を送ります。 ※ポンプ操作と放水操作の連携はしっかりとりましょう。 |
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2. 必要に応じてスロットルレバーを高圧側に操作し、放水圧力を調整します。 ※急激な操作はしないようにしましょう。 |
ホース延長手順
(1)ポンプ側のホースを延長し、ホースを放水口に結合します。 必要なホースを準備し、それぞれ延長・結合していきます。 |
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1.
ホースは、転がして延長します。 ※巻き方によって伸ばし方が変わります。左の写真は、シングル巻きの場合です。 ※転倒しないよう落ち着いて延長しましょう。 |
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2. ホースを結合するときは、「カチッ」と音がするまでしっかりと差し込みます。(ホースの結合部分
は差込式です。) ※結合が不十分だと放水中に外れて危険です。結合後は、一度引っ張って確実に結合できていることを確認しましょう。 |
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(2)ホースとホースを結合していき、先端に管そうを結合します。 | |
(3)ホースを整理した後、ポンプを操作する人に放水の準備ができた合図をします。 放水の反動力に備え、放水姿勢で待ちます。 |
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1. 合図は、声や動作で確実に伝えます。相手が見えない場合は、他の誰かに伝えてもらいます。 | |
2. 水圧による反動力でバランスを崩さないよう、放水が終わるまでしっかりと保持します。 管そうは目標に向け、腰の位置でしっかりと保持します。 前傾姿勢を取り、反動力を抑えましょう。 |
ポンプ停止手順
1. 放水側からの放水停止の合図を確認したら、スロットルレバーを低圧にします。 ※圧力計の指針が低圧になることを確認しましょう。 |
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2. 放水弁ハンドルを閉めます。 | |
3. 停止スイッチを長押しします。 | |
4. 燃料コックを閉鎖します。 | |
5. 放水弁とドレンバルブを開き、残水を完全に排水します。排水後は、再度放水弁を閉じます。 |
3 スタンドパイプの取扱方法
3.1 スタンドパイプの性能
(1)スタンドパイプとは
スタンドパイプは、消火栓に差込み、ホースと管そうを結合することで、毎分100L以上の放水ができる消火用資器材です。消火用資器材としては軽量で操作も簡単で、消防車両が進入できない狭い道路の多い地域や木造住宅密集地域では、火元直近の消火栓・排水栓を活用した有効な消火活動ができます。
スタンドパイプ本体のほか、消火栓鍵、スピンドルドライバー、媒介金具、ホース、管そう(筒先)で構成されています。
スタンドパイプの主な配置場所は、町会・自治会の会館や防災倉庫などです。みなさんの身近で、どこにあるか知っておくと、いざという時に非常に有効です。
(2)スタンドパイプ各部の名称、全体図
(3)スタンドパイプ各部の形状等の例
品名 | 形状・寸法・素材 | イメージ写真 |
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1. 媒介金具 | 差込式異径媒介 差込メス65mm×差込オス40mm アルミニウム製 ※65mmのスタンドパイプと40mmのホースを結合する金具 |
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2. スタンドパイプ | 単口引上げ式 口径65mm 長さ800mm アルミニウム製 |
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3. 消火用ホース | 消防用差込式 口径40mm 長さ20m |
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4. スピンドルドライバー | 長さ1.1m 鉄製 ※消火栓内部の放水弁を開放する道具 |
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5. 消火栓蓋開閉用バール | 十字型消火栓鍵 鉄製 ※消火栓蓋を開ける道具 |
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6. 管そう(筒先) | 口径40mm アルミニウム製 噴霧ノズル付き |
3.2 スタンドパイプ操作手順
(1)消火栓鍵を使用して消火栓蓋を開放します。 | |
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ア.角型消火栓の場合 | |
1.
消火栓鍵を差し込みます。差し込んだら90度回し、長い方をしっかり持って、てこの原理により持ち上げます。 ※蓋を開放する際は、周囲の安全を確認し、膝を曲げて腰をしっかりと低くして、ケガをしないよう注意します。 |
|
2.
完全に蓋を開放します。 ※蓋が手前に倒れて足を挟み込まないよう、足の位置には十分注意しましょう。 蓋を開放してすぐに、放水弁にスピンドルドライバーを差し込むか、吐水口にスタンドパイプ本体を差し込めば、蓋が倒れてきてもケガを防げます。 |
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イ.丸型消火栓の場合 | |
1. 消火栓鍵を差し込みます。 ※てこの原理で蓋を持ち上げます。周囲の安全を確認し、腰を受傷しないよう注意します。 |
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2. 丸型の蓋を開ける時は、一度手前に引き上げてから、180度回して開放します。 | |
(2)吐水口にスタンドパイプを結合し、水が出るか確認をする。 | |
1. 吐水口にスタンドパイプ本体を結合します。 ※操作時、消火栓内に物を落下させないように気を付けましょう。夜間は、懐中電灯などがあると便利です。 |
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2. 結合したら、一度上方へ引っ張り、確実に接続されているか確認します。 ※結合が不十分だと放水中に外れる可能性があり、大変危険です。 |
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3. スピンドルドライバーを差し込みます。 ※スタンドパイプ本体とスピンドルドライバーはどちらが先でも構いませんが、足の挟み込み防止のため、蓋を開けたらすぐに差し込んでください。 |
|
4.
スピンドルドライバーを反時計回り(左回り)に少し回して水が出るか確認します。スタンドパイプから水が出るのを確認したら、スピンドルドライバーを時計回り(右回り)に回して水を止めます。 なお、放水弁を開く時は周囲の安全をよく確認しましょう。急激な操作は大変危険です。 |
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(3) ア.ホースを延長し、結合します。 | |
1.
一本目のホースを延長します。 ※ホースを必要以上に引っ張ると消火栓に差し込んだスタンドパイプが外れる危険があります。ホースを引きすぎないよう十分注意しましょう。 ※巻き方によって伸ばし方が変わります。左の写真はシングル巻きの場合で、転がして延長します。 |
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2. スタンドパイプ本体にホースを結合します。 ※結合部分は差込式です。差込式は、「カチッ」と音がするまでしっかりと差し込みます。結合後は、一度引っ張って確実に結合できていることを確認します。 |
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イ.2本目のホースを伸ばし、管そう(筒先)を結合します。 | |
1.
二本目のホースを延長します。 延長を開始する位置は、一本目が伸びきった位置からだと素早く結合できます。 ※ホースが折れ曲がっていると十分な圧力で放水できません。できるだけ、まっすぐ延長します。 |
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2. ホースとホースを結合します。 二人で結合しても、一人で結合しても構いません。結合後は、しっかり結合されているか確認しましょう。 ※結合部分は差込式です。 |
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3. ホースに管そう(筒先)を結合します。結合後は、しっかり結合されているか確認しましょう。 ※結合部分は差込式です。 |
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※ホース延長中は、ホースが引っ張られることにより、スタンドパイプや吐水口が破損しないように、ホースをしっかりとおさえましょう。 | |
4. 放水開始は、「放水はじめ!!」の発声と真っ直ぐ上方に伸ばした腕で確実に伝えます。 放水時の反動力は強いため、合図を送ったらしっかり体勢を整えて待ちましょう。 |
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※相手が見えない場合は、誰かに伝えてもらいます。やむを得ない場合を除いて、放水担当は管そうから離れないようにしましょう。 | |
5. 合図を確実に確認できたら、放水操作を実施します。 一気に開放すると、放水担当者が反動力でケガをする恐れがあるため、スピンドルドライバーはゆっくり回しましょう。 |
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(4)放水を開始します。 | |
1. 管そう(筒先)は目標に向け、腰の位置でしっかりと保持しましょう。 ※補助者がいる場合は、後方から支援してもらいましょう。また、補助者は、ホースの折れや絡まりがないか確認します。 |
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2. 水が来たら、管そうの先端を開放し、放水を開始します。前傾姿勢をとると水の反動力が抑えられ、姿勢が安定します。 ※放水の反動力があるため、しっかり姿勢を保ちましょう。 |
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(5)放水を停止します。 | |
1.
放水の必要がなくなった場合は、ゆっくりと放水を停止します。 吸水担当者へ合図を送ります。「放水やめ!!」の発声と腕を横に伸ばした動作で確実に伝えます。 ※管そうの先端の閉鎖を急激に行うと資器材を損傷する原因になるため、ゆっくり操作しましょう。 ※相手が見えない場合は、誰かに伝えてもらいます。 |
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2.
時計回り(右回り)に、確実に閉めましょう。 吸水操作実施者は、消火栓から離れてはいけません。常にトラブルに対応できる態勢を整えましょう。br※他の人が消火栓の中に落ちないようロードコーンを置くなどして注意を促すことも必要です。 |
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スタンドパイプ本体のはずし方 | |
※訓練終了後は、水が確実に止まっていることと、ホース内に圧力がかかっていないことを確認したのち、本体レバーを両手で握って、消火栓から取り外しましょう。 ※機種によっては、レバーではない場合がありますので、配置されている資器材の使用方法をよく確認しましょう。 |