大規模地震等に対応した自衛消防力の確保に係る消防法令の改正
1 法改正の背景
日本国内では、地震が多発しています。首都東京においても、マグニチュード7クラスの首都直下地震の発生が懸念されています。
死者 | 5,638人 | 焼失棟数 | 310,016棟 |
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負傷者 | 159,157人 | 焼失面積 | 97.75k平方メートル |
出火件数 | 1,145件 | 建物倒壊件数 | 126,523棟 |
平成18年5月首都直下地震による東京の被害想定報告書(東京都防災会議)より抜粋
しかしながら、今までの消防法は、防火管理者の責務、消防計画への作成事項等として地震その他の災害への対応について、事業所の自主的取組に委ねられ、不明確な部分がありました。
これらを背景に、平成19年6月の消防法の改正により、自衛消防組織の設置、防災管理制度が新たに創設されることとなりました。
なお、東京消防庁管内では、火災予防条例、東京都震災対策条例などにより、各事業所における地震発生時の自衛消防活動や震災対策などが既に義務化されていますが、法令改正に合わせた体制の見直しや再確認を行うことが必要となります。
2 法令改正の概要
主な改正点
防火管理が義務付けられる防火対象物のうち一定のものの管理権原者に以下の事項が義務付けられます。
- 統括管理者、班長等で構成された自衛消防組織を設置し、火災、地震等の災害が発生した場合の活動を行わせること。
- 防災管理者を選任し、防災管理上必要な業務を行わせること。
- 防災管理者に防災管理に係る消防計画を作成させ、地震等の災害に備えた避難訓練を年1回以上実施すること。
- 防災管理者に防火管理者の行う防火管理上必要な業務を行わせること
- 防災管理点検資格者に防災管理上必要な業務が適正に行われているか、毎年点検を行わせ、消防署に報告すること(特例認定を受けた場合を除く。)。
施行日は、平成21年6月1日
(1)法令改正の対象となる防火対象物(政令第4条の2の4)
消防法第8条が該当となる防火対象物で、以下の用途、規模に該当するものが自衛消防組織の設置及び防災管理の対象(以下「防災管理対象物」という。)となります。
- 令別表第1(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項から(12)項まで、(13)項イ、(15)項及び(17)項(以下「対象用途」という。)に掲げる防火対象物(共同住宅、倉庫、格納庫は含まれません。)で以下のいずれかに該当するもの
- 地階を除く階数が11以上で、延べ面積1万平方メートル以上
- 地階を除く階数が5以上10以下で、延べ面積2万平方メートル以上
- 地階を除く階数が4以下で、延べ面積5万平方メートル以上
- 令別表第1(16)項に掲げる防火対象物で、対象用途を含むもので以下のいずれかに該当するもの
- 対象用途が11階以上にあり、対象用途の床面積の合計が1万平方メートル以上
- 対象用途が5階以上10階以下にあり、対象用途の床面積の合計が2万平方メートル以上
- 対象用途が4階以下にあり、対象用途の床面積の合計が5万平方メートル以上
- 令別表第1(16の2)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が1,000平方メートル以上のもの
(注)- 同一敷地内に管理権原が同一の建物が複数ある場合には、それらの建物を一の建物として義務を判断します。
- 建物内の事業所等の規模ではなく、防火対象物全体で、義務の判断を行います。
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+ |
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- 地下街(16の2)項
- +
- 延べ面積1千平方メートル以上
複合用途防火対象物(16)項の場合 | ||
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対象用途に供する部分が・・・ | → | 防火対象物の対象用途に供される部分の 床面積の合計が・・・ |
①11階以上の階にある防火対象物 | → | 1万平方メートル以上 |
②5階以上10階以下の階にある防火対象物 (=11階以上にはない) |
→ | 2万平方メートル以上 |
③4階以下の階にある防火対象物 (=5階以上にはない) |
→ | 5万平方メートル以上 |
(2)自衛消防組織(法第8条の2の5)
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自衛消防組織の設置
防災管理対象物の中で、対象用途の管理について権原を有する者に、火災、地震等の災害時における消火活動、消防機関への通報、避難誘導等の業務を行う自衛消防組織の設置が義務付けられました。この自衛消防組織は、組織を統括する統括管理者と自衛消防業務を行う自衛消防要員で構成します。なお、自衛消防組織の業務ごとに「班」と「班長」などを設ける場合があります。防災管理対象物に対象用途の管理権原者が複数あるときは、共同して一の自衛消防組織を設置します。 -
自衛消防組織の要員の基準
自衛消防組織には統括管理者及び次に掲げる業務ごとに、それぞれおおむね2人以上の自衛消防要員を置かなければなりません。- 火災の初期の段階における消火活動に関する業務(初期消火班)
- 情報の収集及び伝達並びに消防用設備等その他の設備の監視に関する業務(通報連絡(情報)班)
- 在館者が避難する際の誘導に関する業務(避難誘導班)
- 在館者の救出及び救護に関する業務(応急救護班)
→ 自衛消防業務講習についてはこちら自衛消防組織に内部組織を編成する場合は、各内部組織の業務の内容及び活動の範囲を明確にするとともに、内部組織を統括する者(班長)を置く必要があります。この内部組織を本部隊に置く場合に、アからエに掲げる業務を分掌する班の班長(告示班長)には統括管理者と同様の、自衛消防業務講習修了者等の有資格者である必要があります。
また、自衛消防業務講習修了者は、講習を修了した日以後における最初の4月1日から5年以内ごとに自衛消防業務再講習を受講する必要があります。 -
自衛消防組織の業務
自衛消防組織の業務としておおむね以下の事項を消防計画(防火管理に係る消防計画と防災管理に係る消防計画)に定め、火災の初期段階における消火活動、消防機関への通報、在館者が避難する際の誘導その他の火災その他の災害の被害の軽減のために必要な業務を行います。防火管理に係る消防計画に定める事項
- 共通事項
- 火災の初期の段階における消火活動、消防機関への通報、在館者が避難する際の誘導その他の火災の被害の軽減ために必要な業務として自衛消防組織が行う業務に係る活動要領に関すること。
- 自衛消防組織の要員に対する教育及び訓練に関すること。
- その他自衛消防組織の業務に関し必要な事項
- 共同して置く自衛消防組織に関する事項
- 自衛消防組織に関する協議会の設置及び運営に関すること。
- 自衛消防組織の統括管理者の選任に関すること。
- 自衛消防組織が業務を行う防火対象物の範囲に関すること。
- その他自衛消防組織の運営に関し必要な事項
- 防災管理に係る消防計画に定める事項
- 共通事項
- 関係機関への通報、在館者が避難する際の誘導その他の火災以外の災害の被害の軽減のために必要な業務として自衛消防組織が行う業務に係る活動要領に関すること。
- 自衛消防組織の要員に対する教育及び訓練に関すること。
- その他自衛消防組織の業務に関し必要な事項
- 共同して置く自衛消防組織に関する事項
- 自衛消防組織に関する協議会の設置及び運営に関すること。
- 自衛消防組織の統括管理者の選任に関すること。
- 自衛消防組織が業務を行う防火対象物の範囲に関すること。
- その他自衛消防組織の運営に関し必要な事項
- 共通事項
- 共通事項
-
自衛消防組織の設置の届出
防災管理対象物の対象用途の管理権原者は、自衛消防組織を設置したとき及び変更したときは、遅滞なく自衛消防組織の要員の現況等を、自衛消防組織設置(変更)届出として管轄の消防署に届け出る必要があります。届出はすべての管理権原者に義務付けられますが、防災管理対象物全体で一の自衛消防組織を設置することから、届出者は連名又は代表者とすることも可能です。
(3)防災管理(法第36条により読み替えて準用する法第8条)
従来から東京消防庁管内の事業所では、法第8条に基づき定められた消防計画の内容及び火災予防条例第55条の4に基づく努力義務として地震その他の災害(大雨・強風に伴う災害、大規模テロ等に伴う災害)等が発生した場合の自衛消防活動について、実施しているところです。
今回の法改正により、防災管理対象物では、地震等の災害に関する業務(防災管理業務)の実施が義務付けられました。
防災管理を要する災害は、地震及び毒性物質の発散等により生ずる特殊な災害です。毒性物質の発散等については、特別な対応を求めるものではなく、あくまで災害発生時の通報連絡及び避難誘導を行うこととされています。
- 防災管理者
防災管理対象物の管理権原者(所有者のほか、テナント等の管理権原者を含む。)は、一定の資格を有する者のうちから防災管理者を定め、当該防災管理対象物について防災管理に係る消防計画の作成、当該消防計画に基づく避難の訓練の実施その他防災管理上必要な業務を行わせなければなりません。
防災管理対象物では、防災管理者が防火管理者の業務をあわせて行う必要があります。したがって、防災管理者と防火管理者を別の者とすることはできません。 - 防災管理者の資格
防災管理者の資格は、防災管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的な地位にあり、甲種防火管理講習修了者で防災管理新規講習を修了した者又は一定の学識経験等を有する者であることが必要です。
防災管理対象物の中の小規模なテナント等で、乙種防火管理者として選任されている人が、防災管理者となるためには、甲種防火管理新規講習及び防災管理新規講習を修了する必要があります。
→ 防災管理講習受講案内 - 防災管理者の業務の委託
防火管理者の業務の委託の場合と同様に、防災管理対象物内で、管理的又は監督的な地位にある者のいずれもが遠隔の地に勤務しているなど防災管理上必要な業務を適切に遂行することができないと消防署長が認める場合には、防災管理者を別の事業所に勤務する者から選任することができます。 - 防災管理者の責務
防災管理者は、おおむね次の事項を防災管理に係る消防計画に定め、管理権原者の指示の下で防災管理業務を行います。消防計画を作成又は変更した場合は、防災管理に係る消防計画作成(変更)届出書(127-2)が必要となります。防災管理に係る消防計画に定める事項
- 防災管理に係る基本的な事項
- 自衛消防の組織に関すること
- 避難通路、避難口その他の避難施設の維持管理及びその案内に関すること。
- 定員の遵守その他収容人員の適正化に関すること。
- 防災管理上必要な教育に関すること。
- 避難の訓練その他防災管理上必要な訓練の実施に関すること。
- 防災管理に関する消防機関との連絡に関すること。
- (5)に掲げる訓練の結果を踏まえた防災管理に係る消防計画の内容の検証及び当該検証の結果に基づく当該消防計画の見直しに関すること。
- (1)から(7)までに掲げるもののほか、防災管理対象物における防災管理に関し必要な事項
- 地震による被害の軽減に関する事項
- 地震発生時における防災管理対象物及び防災管理対象物に存する者等の被害の想定及び当該想定される被害に対する対策に関すること。
- 防災管理対象物についての地震による被害の軽減のための自主検査に関すること。
- 地震による被害の軽減のために必要な設備及び資機材の点検並びに整備に関すること。
- 地震発生時における家具、じゅう器その他の防災管理対象物に備え付けられた物品の落下、転倒及び移動の防止のための措置に関すること。
- 地震発生時における通報連絡、避難誘導、救出、救護その他の地震による被害の軽減のための応急措置に関すること。
- (1)から(5)に掲げるもののほか、防災管理対象物における地震による被害の軽減に関し必要な事項
- 特殊な災害による被害の軽減に関する事項
- 特殊な災害発生時における通報連絡及び避難誘導に関すること。
- (1)に掲げるもののほか、防災管理対象物の特殊な災害による被害の軽減に関し必要な事項
- 防災管理に係る基本的な事項
- 避難の訓練の実施
防災管理者は、防災管理に係る消防計画を作成し、これに基づいて避難の訓練を年1回以上実施する必要があります。訓練を実施する場合は、自衛消防訓練通知書(143)等により管轄消防署へ通報しなければなりません。 - 防災管理者の選任又は解任の届出
防災管理対象物の管理権原者は、防災管理者を選任又は解任した場合は、防災管理者の資格を証する書面を添えて、防災管理者選任(解任)届出書(124-3)を管轄消防署に届け出る必要があります。 - 防災管理再講習
防災管理者は、5年以内ごとに防災管理再講習を受講する必要があります(学識経験者除く。)。
→ 防災管理講習受講案内
(4)統括防災管理
管理権原の分かれている防災管理対象物の管理権原者は、防災管理対象物全体の防災管理体制を推進するため、統括防災管理者を協議して選任し、全体についての防災管理に係る消防計画の作成、避難訓練の実施等の防災管理業務を行わせなければなりません。統括防火管理が該当しない防災管理対象物でも、管理権原が分かれている場合は、統括防災管理が必要となります。
本内容は、平成26年4月1日の消防法の一部改正の施行により、共同防災管理から統括防災管理に変更後のもの
- 統括防災管理者選任(解任)の届出
共同防災管理協議事項にはおおむね次の事項を定めます。 - 統括防災管理者の業務・役割
統括防災管理者は、建物全体の防災管理体制を推進するため、各テナント等の防災管理者と連携・協力しながら、以下のような業務・役割を行います。- 建物全体についての防災管理に係る消防計画の作成
- ・各テナント等の権限の範囲
・防災管理業務の委託範囲
・地震発生時の消防隊への情報提供など
- ・各テナント等の権限の範囲
- 建物全体の避難訓練の実施
- 廊下や階段等の共用部分の避難上必要な施設の管理
- 建物全体についての防災管理に係る消防計画の作成
- 統括防災管理者への防災管理者に対する必要な「指示権」の付与
統括防災管理者は、各テナント等の対応に問題があって、建物全体についての防災管理業務を遂行することができない場合等に、各テナント等の防災管理者に対して、その権限の範囲において必要な措置を指示することができます。 - 防災管理に係る全体についての消防計画の届出
統括防災管理者は、防災管理に係る全体についての消防計画を作成及び変更したときは、全体についての消防計画作成(変更)届出書を管轄消防署に届け出る必要があります。 - 防災管理に係る全体についての消防計画
防災管理に係る全体についての消防計画には、おおむね次の事項を定めます。防災管理に係る全体についての消防計画に定めるべき事項
- 建築物その他の工作物の管理について権原を有する者の当該権原の範囲
- 建築物その他の工作物の全体についての防災管理上必要な業務の一部を受託している者の氏名、住所、業務の範囲、方法
- 当該計画に基づく全体についての防災管理上必要な訓練の定期的な実施
- 避難施設の維持管理及びその案内
- 地震等発生時の通報連絡及び避難誘導
- 地震等発生時の消防隊に対する当該建築物その他の工作物の構造、その他必要な情報の提供及び消防隊の誘導
- 全体についての防災管理に関し必要な事項
(5) 防災管理点検報告(法第36条により読み替えて準用する法第6条の2の2)
大規模な建物の各事業者は、防災管理点検資格者に地震対策などについて1年に1回点検をさせ、その結果を消防署に報告するものです。
→ 防災管理点検報告制度についてはこちら
(6) 必要な届出等
- 防災管理者となる予定の方が防災管理新規講習を受講します。
防災管理新規講習を受けるためには甲種防火管理講習の修了者であることが必要です。 - 防災管理者を選任します。
⇒ 防災管理者選任届出(124-3) - 統括管理者となる予定の方が自衛消防業務講習を受講します。
防災センター要員講習修了者は追加講習を受講することで、自衛消防業務講習と同等の資格を得ることができます。 - 管理権原者は、自衛消防組織を設置(編成)します。管理権原者が複数の場合は、共同して建物全体で一の自衛消防組織を設置します。
既存の自衛消防隊がある場合は、自衛消防活動中核要員、防災センター要員などの法令事項を満たすように統括管理者を追加します。
⇒ 自衛消防組織設置届出(124-4) - 防火管理に係る消防計画に自衛消防組織の業務に関する事項を、防災管理に係る消防計画に防災管理上必要な事項及び自衛消防組織の業務に関する事項を追加して定めます。
⇒ 防火管理に係る消防計画作成(変更)届出(127)
⇒ 防災管理に係る消防計画作成(変更)届出(127-2)
防火管理、防災管理の消防計画を一の計画とすることも可能ですが、この場合もそれぞれ届出が必要です。 - 消防計画に基づき、告示班長に対する教育(自衛消防業務講習受講等)を行わせます。
- 複数管理権原の防災管理対象物の場合、統括防災管理者の選任・届出、全体についての消防計画の作成・届出が必要です。統括防災管理者となるためには、防災管理者と同様の資格(防災管理講習修了者等)の資格が必要です。
⇒ 統括防災管理者選任(解任)届出書
⇒ 全体についての消防計画作成(変更)届出書 - 作成した消防計画に基づき、年に1回以上地震等の災害を想定した避難訓練を実施します。
⇒ 自衛消防訓練通知書(143) - 年に1回、防災管理対象物の防災管理にかかる事項を、防災管理点検資格者に点検させ、消防署に報告します。
⇒ 防災管理点検結果報告書(151-c) - 防災管理者(必要な学識経験等を有する者は除く。)は、5年以内ごとに防災管理再講習を受講します。
⇒ 防災管理講習受講案内 - 統括管理者及び告示班長(必要な学識経験等を有する者は除く。)は、5年以内ごとに自衛消防業務再講習を受講します。
⇒ 自衛消防業務講習受講案内
問合せ先
- 防火管理課