第10章 救助・救出訓練の指導

基本科目
救助

達成目標
簡易救助資器材を使用した救助方法を指導できる。

大地震が発生した後には、建物の倒壊や家具などの転倒により多くの方が、救助を必要とする事態が発生します。

平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、「震度7」の激しい揺れにより、一瞬にして建物が倒壊し、多くの人々が中に閉じ込められました。その時に、閉じ込められた人の家族や近所の人々が協力して、バールやのこぎり、車のジャッキなど身近にあるものを使って救助・救出活動を行い、たくさんの人が助けられました。

大地震は、いつ起きるかわかりません。みなさんも、身近にある道具を使った救助方法を身につけ、その技術を指導できるようになりましょう。

1 指導のポイント

救助・救出訓練の流れ

倒壊物やがれき等の下敷きになった人の救出方法(資器材の使用方法や応急手当の方法)を指導します。

ケガをしない

大地震後に救助・救出活動を実施するときには、常に危険が伴います。また、訓練にも常に危険が伴うことを認識しましょう。

救助・救出活動の最も大切なポイントは、みなさんがケガをしないことです。必ず団員に手袋、運動靴、ヘルメット、上下の制服(長そで)を着用させましょう。

また、必ず消防職員の指導を受けながら実施しましょう。

共助の大切さを説明する

大地震が起きたとき、東京では同時多発する火災、多数の救助事案、多数のケガ人が発生することが予想されます。東京消防庁の消防力でも、そのすべてに対応することは不可能だと言われています。

また、過去の災害の統計から、倒壊家屋等からの救助の場合、災害発生から72時間が経過すると生存率が急激に低下することがわかっています。

多くの人の命を助けるためには、地域に住む人々が協力して早期に救助・救出活動をすることが必要だということを説明しましょう。

救出人員及び生存救出人員の日別推移
17日 18日 19日 20日 21日
発災からの日数 当日 1日後 2日後 3日後 4日後
救出人員 604 452 408 238 121
生存救出人員 486 129 89 14 7
生存率 80.5% 28.5% 21.8% 5.9% 5.8%

(出典)阪神・淡路大震災活動記録誌編集委員会(1996)『阪神・淡路大震災活動記録誌』
※生存救出人員:救出された方のうち、生存していた方の人数

救助・救出活動で使用する資器材について説明する

救助・救出活動は特別な資器材がなくても、みなさんの家や近くの事業所にある身近な資器材(ジャッキ、毛布、バール、のこぎりなど)を活用して実施できることを説明しましょう。

また、準備した資器材の点検を行うことも、重要です。

訓練開始

屋内や屋外における救助・救出訓練を実施するとともに、毛布等を使用した搬送体験を組み合わせ、一連の流れを体験させることに配意します。

【訓練中の事故防止】

  • 訓練開始前に、団員に訓練の主旨、内容、事故防止について十分に説明しま しょう。
  • 訓練中は、団員の安全を第一に活動しましょう。

訓練終了

  • 会場及びその周辺の後片付けを十分に行いましょう。
  • 資器材等を整理し、借用品は確実に返却しましょう。
  • 訓練の反省会を開くことも重要です。

2 救助・救出訓練指導時の注意事項

  1. リーダー団員を指導しよう
    道具を使用し、重いものを持ち上げる訓練であることから、リーダー団員を対象としましょう。
  2. 安全に配意しよう
    健康状態、体力などの身体状況を考慮し、それぞれの実施者に合わせて、危険の生じないよう、安全の確保が可能な範囲内で実施しましょう。必ず消防職員の指導を受けながら、実施しましょう。
  3. 一時に一事を教えよう
    1回の訓練で全てを教えようとせず、段階を積みましょう。
  4. 習得可能な分量を教えよう
    あまり多くを教えようとすると、全て身に付かなくなってしまいます。
  5. やさしいことから難しいことへ
    「こんなことは知っているだろう」というやさしいことから、実施していきましょう。

3 災害に応じた救助・救出活動のポイント

具体的な活動のポイントを紹介しますので、災害を想定した訓練を実施してみましょう。

(1)倒壊した建物やブロック塀からの救助

  1. 倒壊建物の中で梁(はり)などに挟まっている人を見つけた場合、声をかけ安心感を与えると同時にその状況を把握します。複数の人が挟まれているのを確認した場合は、全体の状況を把握して、救出の順番を決めましょう。
    救助活動を行うときは、まわりの人に声をかけ応援を求めましょう。その後、駆け付けた応援の人に状況を説明し、救出を開始します。
  2. 倒壊した建物にやむを得ず侵入するときは、余震の有無や足場の安全などを確かめ、二次災害が起こらないよう十分に注意します。
  3. 複数の人で力を合わせて救出活動を行うときは、この活動を行う上でのリーダーを決めましょう。活動中は、リーダーの指示に従い、常に大きな声を出し合って、活動をしている仲間どうしの連携を図ります。また、リーダーは、救助活動を開始する前に、活動の手順や方針を仲間と共有しましょう。
  4. 救助活動を始める前に、あらかじめ手で取り除けるものを素早く取り除きましょう。なお、がれきや土砂などがある場合は、スコップ等を使って取り除きます。
  5. 要救助者が挟まれている場所がどんな場所で、どんな状況になっているのかを確認し、活動の妨げとなる部分を破壊し、取り除きます。要救助者にケガをさせないように注意して、のこぎりやバールなどの資器材を使用します。
    【ここに注意!】
    梁や柱などは切断場所によっては崩れてくることがあるので、十分注意して作業を行いましょう。
  6. 要救助者の姿が見えたらすぐに声をかけ元気づけてあげましょう。意識がしっかりしていれば、痛いところがないか、他に建物に人がいなかったかなどを聴き取りましょう。
  7. 要救助者を挟んでいる梁などを、角材を使い、てこの原理を利用して持ち上げ、間隔を作り痛みを和らげてあげましょう。隙間があれば自動車用のジャッキを使って持ち上げ、持ち上げてできた空間が崩れないように角材などで補強してください。
    【ここに注意!】
    てこに使う支点は、角材などの堅く安定性のあるものを使います。また、てこに使う柱は、太さが10cm以上のもので亀裂が入っていない丈夫なものを使いましょう。
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  8. 救出は要救助者に声をかけながら行います。不用意に引きずり出すことのないように、慎重に行ってください。
    【ここに注意!】
    露出している釘や割れた木材の先端などで、ケガをしないように十分に注意して行いましょう。
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(2)転倒した家具やロッカーに挟まれている人の救出・救助

  1. 挟まれている人を発見したら、声をかけ安心感を与えるようにします。そして、挟まれている人に意識があれば状況をたずね、回りの人に助けを求めましょう。
    活動を始めるときは、余震などに十分に注意し、状況を把握し、安全管理を行いましょう。
  2. 転倒した家具などの上に覆いかぶさっているものを取り除きましょう。また、救助活動を行う仲間と手順を確認するために、常に声をかけ合い慎重に作業を進めましょう。
  3. てこの原理を利用して転倒した家具などを持ち上げ、空間を作り痛みを和らげましょう。隙間があれば自動車用ジャッキを使って転倒した家具などを持ちあげましょう。
    【ここに注意!】
    てこに使う支点は、角材などの堅く安定性のあるものを使います。また、てこに使う柱は、太さが10cm以上のもので亀裂が入っていない丈夫なものを使いましょう。
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  4. 場合によっては転倒した家具などの一部を壊し、中の物を取り出して、重量を軽くして痛みを和らげましょう。持ち上げてできた空間は、余震などで再び崩れないように角材などで補強しましょう。
    【ここに注意!】
    挟まれている人に痛みをあたえないように注意して作業を行いましょう。
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  5. 救出に必要な間隔ができたら、要救助者に声をかけながら、慎重に引きずり出します。
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参考:消防防災博物館
『自主防災組織の救助訓練テキスト』

4 クラッシュシンドローム

クラッシュシンドロームとは、がれきなどの重いものに腰や腕、腿(もも)などが長時間挟まれ、その後、圧迫から解放されたときに起こります。

筋肉が圧迫されると、筋肉細胞が障害・壊死を起こします。それに伴って、ミオグロビン(タンパク質)やカリウムといった物質が血液中に交じると、毒性の高い物質が蓄積されます。その後、救助される時に圧迫されていた部分が解放されると、血流を通じて毒素が急激に全身へ広がり、心臓の機能を悪化させて死に至る場合があります。また、例え、一命をとりとめたとしても、その後に腎臓にもダメージを受け、腎不全で亡くなってしまう場合もあります。

これを防ぐために、救出の際には、不用意に引きずり出したり、負傷者の意思を無視して急激に動かさないように注意しましょう。また、長時間、身体の一部分であっても圧迫が加わった場合には、全身の症状が軽く見えても、暗赤色の尿が出たり、腫れたり、感覚がなくなることがあったら、速やかに医師の診察を受けることが必要です。

5 救出した後の傷病者の搬送

傷病者の搬送方法については、『リーダー団員のてびき』の第8章救急の「傷病者の搬送方法」を参考にしましょう。

問合せ先

  • 防災安全課