消防科学セーフティレポート第61号(令和6年)

2025年03月07日 更新

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火災現場で発生する有害物質の危険性に関する検証(第4報)

 火災現場で発生した有害物質の車両や庁舎などへの持込みを防止し、職員の健康被害を軽減させることを目的として、煤に組成が近いカーボンブラックを使用し、擬似的に防火衣生地を汚染させ、現場で実施できる可能性のある複数の除染方法の効果を評価した。また、撥水剤を使用した場合のカーボンブラックの付着防止効果について確認した。
煤による現場での防火衣の汚れ方を複数再現し、除染方法の効果を評価した結果、いずれの汚れ方に対しても、水的除染(噴霧放水)による効果が最も高いことが分かった。また、撥水剤を使用した場合の煤の付着防止効果は見込めないことが分かった。

火災現場で発生する有害物質の危険性に関する検証(第4報)(PDF:1018KB)

年齢層の相違による暑熱環境の身体・認知機能への影響に関する研究

 20~60歳代の消防職員41名に対し、暑熱環境(室温32 ℃,湿度60 %,太陽近似光あり)において、防火衣完全着装(冷却ベスト有)で、消防活動と同強度の運動(踏み台昇降)を20分間実施し、運動時及び運動後の休憩30分間の深部体温、暑さ感覚、認知機能(Fire Visionテストの得点)、疲労(自律神経活動量)及び発汗量を年代別に比較し、加齢による熱中症リスクの差を明らかにした。
 本研究の結果、加齢による熱中症リスク(深部体温、及び主観的な暑さ感覚)の差は確認できなかった。深部体温は、休憩を開始しても20分以上上昇を続け、深部体温が38.0 ℃以上となっても、主観的な暑さ感覚の上昇や認知機能の低下を起こすことはなく、自身の熱中症リスクを主観(暑さ感覚、認知機能、疲労)で判断することは困難であることが分かった。

年齢層の相違による暑熱環境の身体・認知機能への影響に関する研究(PDF:1.2MB)

消防活動におけるノンテクニカルスキルの向上に資する研究

 当庁で は、 効果的に消防活動を遂行すると同時に、確実に消防の任務を遂行するため、訓練や教養を通じて、専 門的な技術や知識の向上を図っている。しかしながら、 災害現場特有 の不確実性やヒューマ ンエラーが関連した事故が発生している。今後、災害の多様化 や都市 構造 の 複雑化 が進む 中で、事故防止を図りながら効果的に活動するためには、個人やチームの力を最大限発揮することが求められる。
 そのため、本研究では ノンテクニカルスキルに焦点を当て、消防活動においてどのような認 知的・社会的スキルが求められるのか明らかにすることを目的として、 消防活動において、高いパフォーマンスを発揮している成績優秀隊を対象にインタビュー調査を行い、得られた現場ニーズや先行研究をもとに、消防活動において重要であると考えられるノン テクニカルスキルを整理した。
 その結果、消防活動におけるノンテクニカルスキルは、「状況認識」、「意思決定」、「コミュニケーション」、「管理」及び「チーム作り」のカテゴリーに整理された。また、 各カテゴリーを エレメントごとに整理し、成績優秀隊 より 得られた現場ニーズから、具体的な行動指標を示すことができた。

消防活動におけるノンテクニカルスキルの向上に資する研究(PDF:1.1MB)

消防版HFACSの作成に関する研究

 消防版HFACSを作成することによって、当庁のヒューマンファクターに起因する事故の分析支援及び事故データベースの体系化を図り、事故報告及び分析を効率化することによって、組織の事故の再発防止、事故の減少に寄与することを目的とし、研究を行った。その結果、事故要因抽出の容易さ及び様々な事故に対する網羅性がある消防版HFACSを作成し、組織全体の事故傾向を把握することができた。

消防版HFACSの作成に関する研究(PDF:1.3MB)

消防活動における体力と技能の統計的評価.

 消防活動の特殊性や活動上の体力の重要性に鑑み、重要な体力要素に関する研究や模擬消防活動モデルを活用した心肺負荷評価に関する研究等、生理学的指標を用いた体力測定が試みられてきた 。一方で、災害現場での経験や訓練により向上する と考えられる、消防活動技能と先行研究で明らかにされてきた体力とを掛け合わせた視点から評価を実施した研究例は少ない。そこで本研究では、消防吏員 834 名を対象に、体力と消防活動技能の関連について分析し、消防吏員の体力×技能の関連性について基礎的知見を得ることを目的とした。研究課題1では、消防吏員の体力現況を明らかにし、対象者の体力総合評価は、全体の 92 %がA判定、残り8%がB判定であった。各種目の平均値は全ての種目で、消防吏員が国民平均を上回り、対象者は高水準の体力を有することが明らかになった。研究課題2では、研究課題1で明らかになった体力と消防活動技能との関連性を評価するため、体力レベル別、技能レベル別にそれぞれ3群に分類し、平均点の比較を行った。その結果、体力レベルが高い群は、技能レベルが高い傾向にあった。また、技能レベル別の体力テスト総得点平均についても技能レベルが高い群は体力テスト総得点も高い結果であった。以上から技能は、体力を土台とする要素であると示唆される。さらに、知識レベル別に3群に分類し、技能点数平均を比較した結果、知識レベルの高さが技能レベルの高さに影響を与えている可能性が示唆され、消防活動力を評価する要素として、知識レベルの高さが重要な要素の一つであると考えられる 。

消防活動における体力と技能の統計的評価.(PDF:761KB)

消防隊用退路表示ホースの開発と不意離脱防止金具による確実なホースラインの確保の検証

 現在、東京消防庁で配置されている色糸と織目による退路方向表示と蓄光部分を有する消防用ホース(以下「ホース」という。)について、白煙が立ち込める火災現場における視認性の低下等、改善の余地がある。また、ホース結合部が意図せず外れる不意離脱防止金具について、より実際の火災現場に近い状況下での有効性の確認が必要である。そこで、本研究ではホースの視認性の向上及び不意離脱防止金具の有効性の実証を基に、その効果について研究した。
 その結果、新たに蓄光及び反射機能を有する消防用ホース及び東京消防庁に導入している蓄光ホースともに、暗所下では蓄光は視認に有効であるが、濃煙下では蓄光は視認できず、投光器による照射での反射は煙で光が散乱し視認できなかった。不意離脱防止金具については、オス側の押輪がロックされる機構にすることによって離脱しにくくなったことが確認できた。

消防隊用退路表示ホースの開発と不意離脱防止金具による確実なホースラインの確保の検証(PDF:277KB)

消防安全文化尺度の開発

 東京消防庁の安全文化の醸成には、安全文化を客観的及び経時的に分析し、科学的根拠に基づいた施策を講じることが必要である。そこで、本研究は消防組織における安全文化を測定する尺度の開発を目的とした。予備調査ではインタビュー調査と質問紙調査を実施し、尺 度案を作成した。本調査は、2023 年2月に実施した質問紙調査で得られた520 人(有効回答率91.1%)のデータを用いて、予備調査で作成した尺度の因子構造と信頼性及び妥当性を検証した。その結果に基づき、「個人の安全意識と行動尺度」で5因子(安全意識2因子、行動3因子)、「小隊(係)の安全風土尺度」3因子、「所属の安全風土尺度」3因子の全43 項目の尺度を作成した。信頼性は内的一貫性を、妥当性は本尺度とワーク・エンゲイジメントや心理的安全性、安全への動機づけ、安全行動、安全風土との関連を検討し、信頼性と妥当性を有する尺度であることが示された。

消防安全文化尺度の開発(PDF:1.3MB)