梅雨が明け、本格的な夏の暑さがやってくるこれからの季節は、熱中症が増える時期です。
また、水に接する機会が多くなり、河川・プール・海などでの水による事故が増える時期でもあります。熱中症や水の事故を防ぐために、次のような点に注意して、楽しい夏を過ごしましょう。
梅雨が明け、夏本番となるこの時期は、まだ暑さに身体が慣れていないため、例年、体調を崩される方が多くなります。
昨年の熱中症の発生状況や新型コロナウイルス感染症を想定した「新しい日常」における留意点を踏まえた予防対策が必要です。
暑い日が続くと、体がしだいに暑さに慣れて(暑熱順化)、暑さに強くなります。
暑熱順化は、「やや暑い環境」で「ややきつい」と感じる強度で毎日30分程度の運動(ウォーキングなど)を継続することで獲得できます。暑熱順化は運動開始数日後から起こり、2週間程度で完成するといわれています。そのため、日頃からウォーキングなどで汗をかく習慣を身につけて暑熱順化していれば、夏の暑さにも対抗しやすくなり、熱中症にもかかりにくくなります。汗をかかないような季節の段階から、少し早足でウォーキングし、汗をかく機会を増やしていれば、夏の暑さに負けない体をより早く準備できることになります。
熱中症の原因の一つが、高温と多湿です。屋外では、強い日差しを避け、屋内では風通しを良くするなど、高温環境に長時間さらされないようにしましょう。
特に高齢者は、のどの渇きを感じにくくなるため、早めに水分補給をしましょう。普段の水分補給は、健康管理上からもお茶や水がよいでしょう。水分補給目的のアルコールは尿の量を増やし体内の水分を排出してしまうため逆効果です。
なお、持病がある方や水分摂取を制限されている方は、夏場の水分補給等について必ず医師に相談しましょう。
学校での体育祭の練習、部活動や試合中などの集団スポーツ中に熱中症が発生していることから、実施する人はもちろんのこと、特に指導者等は熱中症について理解して、計画的な休憩や水分補給など、熱中症を予防するための配慮をしましょう。
汗などで失われた水分や塩分をできるだけ早く補給するためには、スポーツドリンクなどを摂取するのもよいでしょう。
また、試合の応援や観戦などでも熱中症が発生していることから、自分は体を動かしていないからと言って注意を怠らないでください。
車内の温度は短時間で高温になります。少しの間でも、子供を車内に残さないようにしましょう。
一般的に地面に近いほど、地面からの輻射熱は高くなります。子供は大人に比べて身長が低いため、大人よりも地面から受ける輻射熱は高温となります。
東京都心の気温が32.3℃だったとき、幼児の身長である50cmの高さでは35℃を超えていました。また、さらに地面に近い5cmの高さでは36℃以上でした。
今夏は、これまでとは異なる生活環境下で迎えることとなりますが、一方で、例年以上に熱中症にも気をつけなければなりません。十分な感染症予防を行いながら、熱中症予防にもこれまで以上に心掛けるようにしましょう。
なお、厚生労働省のホームページで令和2年度の熱中症予防行動の留意点について掲載されていますので参考にしてください。
厚生労働省ホームページ:「令和2年度の熱中症予防行動について」(報道発表資料・関連通知等 2020年5月26日掲載)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/index.html
熱中症を疑った時には、放置すれば死に直結する緊急事態であることをまず認識し、図1を参考に対応してください。
東京消防庁管内において、令和元年6月1日から9月30日までの4か月間に、熱中症(熱中症疑い等を含む。)により5,634人が救急搬送されています。
例年、梅雨明け後の最初に気温が高温となる日に、急激に救急搬送人員が増加する傾向があり、令和元年は、梅雨が明けた7月24日頃から熱中症による救急搬送人員が増加し、8月は過去5年の月別を比較して、過去最高の救急搬送人員となりました(図2)。
救急搬送時の初診時程度をみると、救急搬送された5,634人のうち約4割にあたる2,328人が入院の必要があるとされる中等症以上と診断されています。重症以上は272人で、そのうち62人は生命の危険が切迫しているとされる重篤と診断され、1人が死亡しています(図3)。
初診時程度とは・・・ | |
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軽 症: | 軽易で入院の必要がないもの |
中等症: | 生命の危険はないが、入院の必要があるもの |
重 症: | 生命の危険が強いと認められたもの |
重 篤: | 生命の危険が切迫しているもの |
死 亡: | 初診時、死亡が確認されたもの |
年齢区分別の救急搬送状況をみると、65歳以上の高齢者が3,005人で全体の約半数を占め、そのうち約7割にあたる2,167人が75歳以上の後期高齢者でした(図4-1、図4-2)。
救急要請時の発生場所では、住宅等居住場所が2,267人で全体の40.2%を占め最も多く、次いで道路・交通施設が1,716人で30.5%を占めていました(図5)。
夏は河川でバーベキューをしたり、プール等に出かけたりする機会が増えて楽しい季節ですが、おぼれて救急搬送される事故も、この時期に多くなります。
河川やプール等でおぼれる事故は、生命を脅かす事故となる可能性が高いことから、十分な注意が必要です。
東京消防庁管内1)では、平成27年から令和元年2)までの6月から9月に発生した河川やプール等でおぼれる事故3)により、59人が救急搬送されています(図1)。
月別にみると、8月に搬送人員が多くなっています(図2)。
年代別にみると、20歳代が最も多く、次いで9歳以下、10歳代となっています(図3)。
おぼれる事故が発生している場所では、河川が42人(71.2%)と最も多く、次いでプールが14人(23.7%)と高い割合を占めています。河川では、地形により流れが速い場所もあるので注意が必要です。また、公園の水場でも2人(3.4%)が搬送されています(図4)。
多くの年齢区分で河川での事故の割合が多くなっています。9歳以下では、河川やプール、公園の水場とさまざまな場所で発生しています(図5)。
初診時程度別割合では、生命の危険が強いと認められる重症以上の割合が約4割を占めています(図6)。
死 亡: | 初診時死亡が確認されたもの |
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重 篤: | 生命の危険が切迫しているもの |
重 症: | 生命の危険が強いと認められたもの |
中等症: | 生命の危険はないが入院を要するもの |
軽 症: | 軽易で入院を要しないもの |
0歳から5歳までの乳幼児では、2歳と5歳が最も多く救急搬送されています。また、発生場所はプールで多く発生しています(図7)。
過去には、ビニールプールでも発生していることから、水遊びをさせる際は、子供から目を離さないようにしましょう。
1 | 【目を離した隙におぼれた事故】プールで、親が少しの間目を離した際に子どもの姿が見えなくなり、流れるプールで流されているのを発見した。(4歳 中等症) |
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2 | 【河川でおぼれた事故】河川敷で同僚とバーベキュー中、対岸から川を渡ろうとした際に、流されて顔まで水に浸かってしまった。(20代 中等症) |
3 | 【飲酒後に河川でおぼれた事故】飲酒後の帰宅途上に、何らかの理由で緑道の川に転落した。(70代 軽症) |
4 | 【飛び込みによる事故】公園内の浅い池で、石の上から飛び込んだ際に前のめりに転倒し、顔が水に浸かりおぼれた。(1歳 軽症) |
突然に心肺停止した方を救命するためには、救急車が到着するまでの間、バイスタンダー(その場に居合わせた人)による心肺蘇生とAED(自動体外式除細動器)の使用が重要です。尊い命を救うために心肺蘇生の方法を身につけましょう(表1、図1)。
表1 年齢区分における心肺蘇生心肺蘇生 | 胸骨圧迫(心臓マッサージ) | 人工呼吸 | ||||||
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対象 | 実施回数の比率 | 圧迫位置 | 圧迫法 | 圧迫の深さ | テンポ | 吹き込み量 | 吹き込み時間 | 吹き込み回数 |
成人 | 胸骨圧迫 30回人工呼吸 2回 |
胸骨の下半分(胸の真ん中) | 両手 | 約5cm | 100〜120/分 | 胸の上がりが見える程度の量 | 約1秒 | 2回 |
小児 | 両手又は片手 | 胸の厚さの1/3 | ||||||
乳児 | 2指 |
『上級救命講習テキスト』ガイドライン2015対応(東京防災救急協会発行)より引用・編集
図1新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、日々の生活の中で多くの不安を抱えていらっしゃることと思います。
いざというとき、応急手当を行う方の感染を防止するため、以下の点に気をつけてください。
胸骨圧迫のみを行い、人工呼吸は行わないでください。
人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある家族等は、胸骨圧迫に加えて人工呼吸を行います。
人工呼吸用マウスピース(一方向弁付)等があれば、活用しましょう。
119番通報後、救急隊が到着するまでの間に、災害救急情報センター勤務員や救急隊員が電話でアドバイスをすることがあります。
AEDの装着と使用については、これまでどおり変更はありません。
今回の対応は、今後予定されている蘇生ガイドライン2020改訂とは異なる一時的なものです。
119番通報後、傷病者の状況等を確認するため、救急隊が到着するまでの間に災害救急情報センター管制員や救急隊員から、状況に応じてバイスタンダーに必要な応急手当のアドバイスを行う場合があります。
東京消防庁公式アプリでは、もしもの時でも役に立つ胸骨圧迫テンポ音や心肺蘇生動画など多様な機能を備えています。
ぜひスマートフォン等にダウンロードしてご活用ください。